川端康成

「君はいい女だね。」 「どういいの。」 「いい女だよ。」 「おかしな人。」と肩がくすぐったそうに顔を隠したが、なんと思ったか、突然むくっと片肘立てて首を上げると、 「それどういう意味? ねえ、なんのこと?」  島村は驚いて駒子を見た。 「言って頂戴。それで通ってらしたの? あんた私を笑ってたのね。やっぱり笑ってらしたのね。」  真っ赤になって島村を睨みつけながら詰問するうちに、駒子の肩は激しい怒りに顫えて来て、すうっと青ざめると、涙をぽろぽろ落した。 「くやしい、ああっ、くやしい。」とごろごろ転がり出て、うしろ向きに坐った。  島村は駒子の聞きちがいに思いあたると、はっと胸を突かれたけれど、目を閉じて黙っていた。 「悲しいわ。」  駒子はひとりごとのように呟いて、胴を丸く縮める形に突っ伏した。  そうして泣きくたびれたか、ぷすりぷすりと銀の簪を畳に突き刺していたが、不意に部屋を出て行ってしまった。  島村は後を追うことが出来なかった。駒子に言われてみれば、十分に心疾しいものがあった。